大判例

20世紀の現憲法下の裁判例を掲載しています。

山口地方裁判所 昭和48年(ワ)101号 判決 1975年3月05日

原告

藤本サキミ

原告

藤本悟

右両名法定代理人親権者父

藤本清

右両名訴訟代理人

高井昭美

被告

松永多美子

主文

原告等の請求を棄却する。

訴訟費用は、原告等の負担とする。

事実

原告等訴訟代理人は、「被告は、原告等に対し、別紙目録記載の不動産について昭和四七年四月二六日の贈与を原因とする所有権移転登記手続をせよ。訴訟費用は、被告の負担とする。」との判決を求め、その請求の原因として次のように述べた。

被告は、昭和三二年九月二日、訴外藤本清と妻の氏を称する婚姻をなし、昭和三二年八月一六日、長女の原告サキミが、昭和三八年一二月二日、長男の原告悟が、順次出生したが、その後、訴外人から山口家庭裁判所に離婚の調停の申立をなし(同庁昭和四七年(家イ)第三三号)、昭和四七年四月二六日、同家庭裁判所において、(一)訴外人と被告は離婚する。(二)原告両名の親権者を訴外人と定め、同人において監護養育する、(三)被告は、訴外人に対し原告両名の養育料として各人金二五万円、合計金五〇万円を昭和四七年四月末日限り訴外人宅に持参または送金して支払う、(四)被告は、訴外人に対し、離婚による財産分与として、被告所有の別紙目録記載の不動産を原告等名義に所有権を移転する、(五)右所有権移転登記手続は、訴外人において、同人の費用をもつてし、被告は、これに協力する旨の調停が成立した。

原告等は、右調停の成立と同時に、被告の贈与により、右不動産について、各自の持分二分の一の所有権を取得した。

そうでないとしても、右調停において、被告が、訴外人に対し、原告両名のために右不動産を贈与することを約したことにより、原告等は、右不動産について、各自の持分二分の一の所有権を取得した。

また、そうでないとしても、右調停において、被告が、原告等の法定代理人である訴外人に対して、右不動産を贈与したのであるから、原告等は、右不動産について、各自の持分二分の一の所有権を取得した。

そこで、原告等は、被告に対して、右不動産につき、昭和四七年四月二六日の贈与を原因とする所有権移転登記手続を求めるため、本訴請求に及んだのである。

なお、被告の主張事実を否認する。

被告は、主文同旨の判決を求め、答弁として次のように述べた。

原告等の主張事実のうち、被告が訴外藤本清と婚姻をなし、原告等が順次出生したこと、訴外人が山口家庭裁判所に離婚の調停の申立をしたこと、右調停において原告等主張の(一)(二)(三)のような合意の成立したこと、別紙目録記載の不動産が被告の所有であることは認めるが、その余の点は否認する。

たとえ、原告主張のよな調停が成立したとしても、被告は、原告両名の成長後であれば格別、右調停の時点においては、まだ、原告両名に右不動産の所有権を移転する意思はなかつたので、被告が右調停においてなした意思表示には要素の錯誤があるから、無効である。

従つて、原告等の本訴請求は失当である。

証拠<略>

理由

被告が訴外藤本清と婚姻をなし、原告等が順次出生したこと、訴外人が山口家庭裁判所に離婚の調停の申立をしたこと、右調停において原告等主張の(一)(二)(三)のような合意の成立したこと、別紙目録記載の不動産が被告の所有であることは当事者間に争いがなく、右の事実に<証拠>を総合すれば、次の事実が認められる。

被告は、昭和三二年九月二日、訴外人と妻の氏を称する婚姻をなし、昭和三二年八月一六日、長女の原告サキミが、昭和三八年一二月二日、長男の原告悟が、順次出生した。その後、訴外人から山口家庭裁判所に離婚の調停の申立をなし(同庁昭和四七年(家イ)第三三号)、昭和四七年四月二六日、同家庭裁判所において、(一)訴外人と被告は離婚する、(二)原告両名の親権者を訴外人と定め、同人において監護養育する、(三)被告は、訴外人に対し原告両名の養育料として各人金二五万円、合計金五〇万円を昭和四七年四月末日限り訴外人宅に持参または送金して支払う、(四)被告は、訴外人に対し、離婚による財産分与として、被告所有の右不動産を原告等名義に所有権を移転する、(五)右所有権移転登記手続は、訴外人において、同人の費用をもつてし、被告は、これに協力する旨の調停が成立した。

以上のとおり認められる。<証拠>のうち右の認定に反する部分はにわかに信用し難く、他に右の認定を左右するに足りる証拠はない。

ところで、原告等は、右調停により、右不動産について被告からの贈与に基づく所有権の取得を主張するけれども、<証拠>によれば、前記のとおり、右調停は、訴外人と被告だけを当事者として行われたものであり、しかも、被告が訴外人に対し離婚による財産分与として右不動産の所有権を原告等に移転すべき債務を負担する旨の合意をなしたのに止まり、被告が直接原告等との間において贈与契約をなしたものではないことが明らかであるから、原告等の右の主張は採用し得ない。

次に、原告等は、被告の訴外人との間における原告等のためにする契約による右不動産の所有権の取得を主張するけれども、<証拠>によれば、被告は、右調停中、原告等に直ちに右不動産の所有権を移転する確定的な意思はなかつたことがうかがわれるので、被告が訴外人との間の右調停においてなした前記のような財産分与の合意は、右不動産について、原告等と被告との間に直接の権利義務を創設しようとする趣旨の契約とまでは解し得ないから、このような契約は第三者のためにする契約とはいえないのであつて、これと異なる原告等の右の主張は採用し得ない。

また、原告等は、右調停における合意が被告と原告等の法定代理人たる訴外人との贈与による右不動産の所有権の取得を主張するけれども、<証拠>によれば、右調停に原告等は当事者ないし利害関係人として参加していないし、訴外人も、また、原告等の法定代理人たる資格において右調停における合意をなしたものではないことを認め得るから、原告等の右の主張は採用し得ない。

そうしてみると、以上と異る主張に基づく原告等の本訴請求は、もはや、この上の判断を加えるまでもなく、理由のないことが明らかであるから、棄却を免れない。

よつて、訴訟費用の負担について民事訴訟法第八九条、第九三条を適用して、主文のとおり判決する。 (濱田治)

目録<略>

自由と民主主義を守るため、ウクライナ軍に支援を!
©大判例